ベネッセパレットの介護食研究会
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高齢者の栄養

嚥下調整食は栄養価が下がる?低栄養を防ぐ実践ポイント

嚥下調整食は水分量や食事量の影響でエネルギーやたんぱく質が不足しやすく、低栄養につながることがあります。栄養素密度を意識した献立の組み立て方や経口栄養補助食品の活用法を解説します。

高齢者や嚥下障害の方向けの食事で何よりも大切なのは、安心して食べられることです。その一方で、健やかな毎日を送るためには、必要な栄養素を摂ることも欠かせません。嚥下調整食は調理の過程で水分を加えるなどの調整が含まれているため、見た目の量に対してエネルギーやたんぱく質などの栄養素が不足することがあります。

本記事では、嚥下調整食の栄養価が下がると言われている背景と、低栄養を防ぐ食事の組み立て方のポイントを解説します。

目次index

嚥下調整食とは?目的と基本的な考え方

嚥下調整食とは、加齢や疾患などにより、そしゃくや嚥下が困難な方向けに、食べやすい形状に仕上げた食事です。誤嚥や窒息のリスクを軽減し、安心できる食事の提供を継続するために、病院や高齢者施設、在宅介護の現場などで用いられています。

しかし、嚥下調整食は、単に食材をやわらかくしたり、きざんだりすることだけではありません。利用者の嚥下機能に合わせ、食べ物が口腔内でどのように動き、どのタイミングで飲み込まれるかという一連の流れを考えたうえで、適切な形態に整える必要があります。

詳しくは、以下の記事も参考にしてください。
嚥下(えんげ)食とは? その必要性と分類について
嚥下食ピラミッドの概要と各レベルの分類・詳細
嚥下食の分類まとめ|学会基準と実務での活用

食形態の調整と栄養管理は別の視点で考える

嚥下調整食は、食べやすさを整えることが基本のため、食事量や形態のみを考えただけでは十分な栄養素を摂取できないケースが生じます。

一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会が定める「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2021」(以下、「学会分類2021」)では、食品のやわらかさやまとまりやすさに基づいてコード0~4で分類されています。この分類は、利用者の嚥下機能に照らし合わせて、安全に食べられる形状を示す指標として使われます。

ただし、同じ分類の食事であっても、栄養価や量は一律ではありません。そのため、介護施設やご家庭で提供する際には、安全性の配慮と食事全体の栄養バランスの確認が必要です。

各コードの分類内容については、以下の記事も参考にしてください。
嚥下食の形態とは? コードの位置づけや変更する際の目安・注意点を解説
嚥下調整食2(コード2)とは? 2-1/2-2の違い・献立の考え方・形態調整のポイント
嚥下食3(コード3)とは?嚥下調整食の分類と食事例&調理ポイント
嚥下調整食4(コード4)とは?他コードとの違い・献立例・注意したい食品をわかりやすく解説

嚥下調整食で栄養価が低くなる理由

 嚥下調整食では、飲み込みがしやすいよう水分を加えることがあるため、栄養価が低くなる場合があります。食材をきざむ、ミキサーにかける、あるいは水分を加えてやわらかくすると、食事全体の水分量が増えることになり、普通食と同じ提供分量では栄養価が低くなることがあります。

水分量が増えると栄養価はどう変わる?

日本食品標準成分表では、食品の栄養成分は100gあたりで示されています。

同じ精白米を使っても、水分量が多い全粥では、100gあたりのエネルギーや炭水化物、たんぱく質のそれぞれの栄養価が通常の炊飯した白米より低くなります。以下の表が、通常の白米と全粥の栄養価の比較です。

<ごはんと全粥の栄養価(100gあたり)>

  エネルギー(kcal) 水分(g) 炭水化物(g) たんぱく質(g) 脂質(g) 食塩相当量(g)
精白米/
水稲めし
156 60 36.1 2.5 0.3 0
精白米/
水稲全粥
65 (83.8) (15.8) (1.1) (0.1) 0

※( )内は推定値・類推値。実際の栄養量は変動する可能性があります。
【出典】文部科学省 食品成分データベース|穀類/こめ/[水稲めし]/精白米/うるち米 - 01.一般成分表-無機質-ビタミン類
文部科学省 食品成分データベース|穀類/こめ/[水稲全かゆ]/精白米 - 01.一般成分表-無機質-ビタミン類

食事量が減りやすい要因

嚥下調整食は作成する際に水分を追加することで、食事のボリュームが増えることがあります。そのため、一食を終えるまでに時間がかかることがあります。その結果、食事の途中で疲れてしまい、完食できずに残してしまうケースも考えられます。このようなことが、エネルギーやたんぱく質の不足を引き起こす大きな要因の一つとなっています。

低栄養を防ぐために必要な考え方

嚥下調整食では、食事量が少ない、または十分な栄養が摂れない状態が続くと、低栄養に陥りやすくなります。ここでは、低栄養を防ぐために必要な考え方について解説します。

栄養素密度を意識した食事の組み立て

栄養素密度とは、食品100kcalあたりに含まれる各栄養素の量のことです。栄養素密度が高いほど、少量の食事でも必要な栄養素を効率的に摂取できます。そしゃく・嚥下機能が弱った方でも安全に食べきれる少量の食事量でも必要な栄養素を効率的に摂取できるように、栄養素密度を調整することが大切です。

●主食・主菜・副菜を組み合わせる

粥や軟飯などの主食に、肉・魚・卵・大豆製品といった主菜と、野菜を中心とした副菜を組み合わせることで、エネルギー・たんぱく質・ビタミン・ミネラルをバランスよく摂取できます。

●旬の野菜を取り入れる

旬の野菜は栄養価が高く、ビタミンやミネラルを効率よく補えます。加熱したりきざんだりするほか、ペースト状にすることで、嚥下調整食にも取り入れやすくなります。

●油脂や乳製品を適度に活用する

食べられる量に制限がある場合は、油脂や乳製品を加えることで、無理なくエネルギーを補うことができます。嚥下状態に配慮しながら、料理に混ぜ込むなどの工夫が考えられます。

補助食品の嚥下食の活用

嚥下調整食では、少量でも効率よくエネルギーやたんぱく質を補う工夫が必要です。食事内容や利用者の状態に応じて、補助食品を導入します。

・経口栄養補助食品(Oral Nutritional Supplements:以下ONS)

ONSとは、通常の食事だけでは不足しがちなエネルギーや栄養素を補うため、栄養剤や栄養補助食品を経口で摂取する栄養管理方法を指します。食事量を増やさずに栄養補給ができるため、食事と一緒に摂取したり、間食として取り入れたりと、利用者の嚥下状態や嗜好に合わせた調整が可能です。

・食事に加える素材

●MCTオイル(中鎖脂肪酸油):MCTオイルとは、ココナッツやパームフルーツなどに含まれる「中鎖脂肪酸」100%の油です。料理に少量加えることで、エネルギーや脂質を補いやすくなります。
●プロテインパウダー:プロテインパウダーとは、たんぱく質を補うことを目的とした粉末状の栄養補助食品です。主菜やスープに混ぜて、たんぱく質の摂取量を調整できます。

具体的な嚥下食の作り方のポイントは、以下の記事も参考にしてください。
ミキサー食とは?作り方のポイントや注意点を解説
【ミキサーを使った嚥下食】初めてでも大丈夫!作り方・食材の選び方・コツまとめ
ミキサー食の人気おすすめレシピ!家庭・施設で簡単に作れる肉・魚・野菜・デザートをご紹介

・市販の嚥下食の活用

近年、食材本来の風味や彩りを工夫した市販の嚥下食が増えています。加水を抑えて栄養素密度を高めたソフト食、ムース食、ミキサー食など、嚥下の状態に対応した市販品は、食べやすく、かつ食事時間内に効率よく栄養を摂取できるため、介助や調理の負担も軽減できます。

市販の嚥下食については以下の記事も参考にしてください。
通販で手軽に始める嚥下食・介護食!冷凍・レトルト・市販商品の選び方と活用法
宅配嚥下食が人気の理由は?高齢者も安心して選ぶコツ
嚥下食の宅配サービスとは? 施設や病院で広がる新しい食事支援のかたち
高齢者向け宅配弁当の選び方|施設導入の際のポイント
忙しい施設必見!高齢者向け冷凍宅配弁当サービスの導入5つのメリットと活用法

また、高齢者ならではの身体的特徴や食習慣の影響を理解しておくことも、低栄養の予防につながります。

より詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。
高齢者の栄養失調が起こる要因と対策
高齢者の低栄養を防ぐ 栄養管理のポイント
高齢者の栄養の管理ポイント たんぱく質とカロリーを効率的に補う方法

家庭・施設で嚥下調整食を提供する際のポイント

嚥下調整食の提供で最も重要なのは利用者個々の状態への配慮です。利用者によって、嚥下状態や食欲、体格などには個人差があり、同じ形態の食事でも必要な栄養量は異なります。定期的に利用者の状態を観察し、必要に応じて形態や栄養量を見直すことが大切です。

嚥下食向けの献立については、以下の記事も参考にしてください。
手作りできる嚥下食献立|家庭でもできる段階別工夫と調理のヒント

【まとめ】嚥下調整食の栄養価は背景を理解して考える

嚥下調整食は、水分量が増えることで栄養素密度が下がり、栄養不足のリスクが高まることがあります。

そのため、主食や主菜を中心に栄養素密度を意識した献立の組み合わせや、経口栄養補助食品の有効活用が重要です。ご家庭や施設では、個人の嚥下状態や体調、体格に応じて調整し、定期的に見直すことで必要な栄養価を無理なく摂取できる食事を提供し続けることができます。

※記事掲載のイラスト・写真はすべてイメージです。

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この記事の監修

栄養士

下口 貴正

長崎・福岡の病院厨房MG、本社勤務を経て、中四国エリア事業部長東海支店部長、京都支店長を歴任。
2013年よりベネッセパレット設立準備室へ異動し現在製造本部責任者として介護食・配食の製造に従事する。

長崎・福岡の病院厨房MG、本社勤務を経て、中四国エリア事業部長東海支店部長、京都支店長を歴任。
2013年よりベネッセパレット設立準備室へ異動し現在製造本部責任者として介護食・配食の製造に従事する。

【参考文献】
日本摂食嚥下リハビリテーション学会|嚥下調整食分類 2021

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